1.現在のAI技術の進歩と課題
AI技術の進化により、様々な産業でAIが重要な役割を果たすようになりました。中でも特筆すべきは、文章生成AIと画像生成AIです。OpenAIのchatGPT(GPT-4)などの高度なAIモデルは、与えられたプロンプトに基づいて質の高い文章を生成し、広範な分野で活用されています。
一方で、日本ではForest Watch社が開発した画像生成AIが注目を集めています。このAIは、既存の画像から新たな画像を生成する能力を持ち、その生成された画像の品質は人間が作成したものと見分けがつかないほどです。
しかし、これらのAIツールの利用には注意が必要です。生成された文章や画像が著作権を侵害しないようにするため、AIが利用する学習データの選択と管理が重要になります。また、画像生成AIが個人の顔画像を生成する際には、個人情報保護の観点からも慎重な対応が求められます。
今後、AI生成ツールの技術はますます進化し、より多様な用途で利用されるでしょう。しかし、その一方で、著作権や個人情報保護などの法的な問題への対応も、クリエイターやAI利用者にとっては重要な課題となるでしょう。
そこで、こちらの記事でこれらのAI技術に関する問題点前提となる解釈論、及び解決のためのポイントについてご説明いたします。
2 AIによる画像や文章の学習と著作権法
AIは大量のデータを学習し、新しい情報を生成しますが、その学習過程で利用される画像や文章は往々にして著作権の対象となります。日本の著作権法は、AIによる学習が著作権侵害になるか否かを判断するための基準を設けています。それは「著作権法30条の4」であり、この条項は営利目的か否かを問わず、著作者の同意を取ることなく、著作物をコンピュータプログラムの学習などの思想感情を共有しない態様での利用を認めています。また、AIが生成する作品の著作権については、現在の日本の著作権法では、人間の創作活動を前提としているため、AI自体が著作権を持つことは認められておらず、AIによる作品の生成の過程においてAIに指令を出した者に創作的寄与があるか否かによって作品が指令者の著作物になる余地があるかどうかが問題になります。
3. AI生成物を利用するに際して注意しなければならない権利
3-1. 著作権
AIの学習によって得られた知識を基に生成された作品の利用にあたり、その作品が既存の著作権を侵害していないか確認することが重要です。特に、AIが利用する学習データが著作権保護対象であった場合、そのデータを利用するための許諾が必要となる場合があります。一方で、現行の法令ではAIによる学習そのものを禁止することは基本的に不可能です。
しかしながら、AIによって生成された作品が他の著作物と類似している場合には著作権侵害となり得ることがあります。具体的には、AI利用者が既存の作品に対して直接的なアクセスを行って指令を出す過程で作品を使用した場合、その行為は依拠性が認められ、侵害になる可能性があります。
しかし、利用者がAIの学習や生成過程に関与していない場合、原則として著作権侵害にはならないとされています。ただし、学習データに著作権保護対象の作品が含まれていた場合、その事実だけで依拠性を認めるか否かは議論が分かれる問題であり、明確な解答はまだ定まっていません。
2-2. 商標・意匠
商標や意匠に関しても同様に注意が必要です。AIが生成した作品が他社の商標や意匠を無断で使用したり、混同する恐れがある場合、法的問題が発生する可能性があります。
2-3. 個人情報
AIは大量のデータを学習しますが、その中には個人情報が含まれる場合があります。個人情報の取り扱いにはプライバシーに関する規制や個人情報保護法による規制があり、適切な承諾なしに個人情報を利用したり、公開したりすると違法となります。
4.著作物のAIによる学習
原則適法ですが、例外として以下の場合に注意する必要があります。
4-1. 著作権者に不当な利益を及ぼす場合(著作権法30条の4但書)
著作権法30条の4には但書があり、AIが学習することによって著作権者に不当な影響を及ぼす場合、その学習は違法となる可能性があります。たとえば、AIが商業的に利用され、その結果として著作権者の経済的利益のみならず市場経済が侵害されるケースなどが考えられます。
4-2. 規約等で学習を禁止できることの可否(オーバーライドの問題)
また、使用するデータのライセンスや利用規約がAIの学習を制限または禁止している場合、その規約は著作権法30条の4を”オーバーライド”し、適法とされた学習活動も違法となる可能性があるという考えもあります(まだ定説とはなっていませんが留意が必要です)。したがって、AIが利用するデータのライセンスや利用規約の確認は必須となります。
5. AI生成物が著作権侵害になるケース
5-1. 前提:AI生成物が著作物となる要件
AI生成物が著作物となるためには、「表現」と「創作性」の二つの要素が必要です。これらの要素が満たされた場合、AI生成物も著作物とみなされ、著作権の保護を受けることができます。
5-2. 前提:一般的な著作権侵害の要件
著作権侵害とされる行為は、特定の要件を全て満たすものとされています。一般的な著作権侵害の要件は以下の5つです。
- 著作物であること:侵害が疑われる対象は、著作権法で保護される「著作物」でなければなりません。
- 著作権の存在:侵害の対象となる作品には、有効な著作権が存在していなければなりません。
- 依拠性:侵害者の作品が既存の作品に依拠していること、つまり既存の作品に接触し、それを基に自作品を作成したと認められること。
- 類似性:侵害者の作品が作品中の具体的な創作性のある表現について既存の作品と類似していること。純粋な偶然の一致、ありふれた表現部分の一致は侵害にはなりません。
- 権限の不在:侵害者が著作権者から利用許諾を得ていないこと。
以上の5つが一致する場合、一般的にはその行為は著作権侵害とされます。
5-3. AI生成物の場合の著作権侵害の要件
AI生成物の場合も、一般的な著作権侵害の要件が適用されます。しかし、AI生成物が他の著作物を複製または改変しているか否かの判断は、一般的な著作権侵害と比べて複雑な場合があります。特に、AIが学習したデータに基づいて新たな作品を生成した場合、その作品が元のデータの著作物と創作的な表現の部分において「類似」しているか否かの判断は、法的な解釈が求められます。また、AIが生成した作品が既存の著作物の本質的特徴を感得できない程度に元の著作性の創作性を失い、一方、制作した作品が独自の「創作性」を持つに至った場合、その作品は新たな著作物となる可能性があります。
6.AIと権利処理のまとめ
AI技術の急速な進化は、文章生成から画像生成まで、多岐に渡る領域でその影響を広げています。しかし、このAI技術の進化は、著作権法や個人情報保護法といった法律領域に新たな課題を生み出しています。AIの学習と生成の過程は、それぞれが異なる法的問題を引き起こす可能性があるため、その理解と管理は重要です。
著作権法において、AIの学習データの選択や生成作品の類似性が問題となる一方、個人情報保護法ではAIが生成する画像などの扱いが課題となります。このような専門的な問題に対しては、自らの判断だけで決断するのは困難で、深い知識を持つ専門家の支援が必要です。
7.AIや著作権に関するお問い合わせは前田拓郎法律事務所へ
前田拓郎法律事務所では、AIと著作権法、また個人情報保護法に関する深い知見を活かして、AI利用者やクリエイターの皆さまの法的課題を解決します。AIの進化とともに増大する法的な課題は、前田拓郎法律事務所があなたのサポートをします。
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