昨今fintechに始まりブロックチェーン・AI・IotからDX・メタバース・VR/AR/XR・web3.0にいたるまで、ビジネスシーンにおける技術のトレンドはめまぐるしく変わっている状態にあります。
新しい技術の発展に伴い自社のコンテンツを用いてビジネスするにあたっても新しい技術をどう利用するか、スキームごとに気を付けなければいけないケースは多々あります。そこで弊所コラムのシリーズとして著作物・コンテンツなどの知財管理や事業主体の構成員などに関する問題点などを会社のモデルと共に知ってもらう試みを始めたいと思います。
第1回はケース1として多様なコンテンツを扱うことの多いメディア会社様を想定して説明しようと思います。
一口にメディアといっても新聞社やテレビなどのオールドメディアからインターネット記事を集合させてブランディングさせている会社、SNSなどで定期的に発信して注目度やレビュー数を稼ぐスタイルのメディアまで事業形態や扱う分野はそれぞれです。ここではライターが記事を書いてインターネットなどに配信するメディア会社様を想定しています。
1.スタート段階
(0)前提
最先端分野に関する新動向を発信していくメディアを立ち上げようと試み先日法人X社を立ち上げたW氏、従業員としては最先端技術についての知見があり、技術者としてのキャリアのあるV氏を向かい入れ、編集者としてO氏を迎え入れることとした。
記事を書くライターはインターネットへの掲載頻度を考え5人採用することにしたが、彼らの書いた記事の内容はX社のプロジェクト「XLIVE通信」という名のもとに掲載させ、これをブランディングさせていきたい。掲載数やビュー数を稼ぎ、ゆくゆくは広告などをつけて広告収入なども挙げられるようにしたいとW氏は考えている。
(1)基本:記事に関する権利管理はどう一元化する?
まず、各ライターの書いた記事(取材に写真やコメントがあればそれらに関する取材対象者の権利もふくむ)は原則各ライターの著作物になり、X社がXLIVE通信として各ライターの書いた記事群をX社の知的財産として運用するためには、①各ライターの書いた記事について職務著作(著作権法第15条)として扱い、著作者をX社とするように扱うか②各ライターに発生した著作権をX社に譲渡してもらう契約を締結しなければならない。
職務著作の成立要件は
a)使用者の発意:創作することについての意思決定が直接また間接に法人等の判断で行われていること((中山信弘『著作権法(第三版)』253頁))
b)使用者の業務に従事する者が著作物を作成すること:諸般の事情を勘案したうえで、従業員につき雇用関係から生じるものと類似した指揮命令・監督関係があることが必要である((最判平成15年4月11日判時1822号133頁))が、具体的な状況によって判断が分かれやすい。
c)著作物が職務上作成されていること:
d)法人等が自己の著作の名義のために公表する著作物であること(プログラムの著作物の場合は除く((著作権法第15条2項)))
e)契約、勤務規則その他の別段の定めのないこと
以上の要件を各ライターの著作物について満たさなければならない。とくに、ライターと使用者たるX社との業務上の指揮命令監督関係がどの程度維持されているのか。その辺について注意する必要がある。
これに対し、ライターに発生した著作権を会社に譲渡する場合にはあらかじめ契約で定めておくことも可能であり簡便である。しかし、著作権法第27条28条に定める権利については特別に明記しないと権利譲渡されないものと推定される点および著作者人格権については譲渡できない((著作権法第50条))なので、著作者人格権不行使の特約を入れることになる。
(2)もう一歩:ライターによる社内トラブルの防止方法は?
ライターによっては自分が記事を書いた者であると明記したい場合、業務委託契約等の終了後に、事後的に記事を消してほしい場合などが出てきて、その処理にもめるケースもある。完全に権利委譲が住んでいる場合でも職務著作性を個別に証明するのは困難であったり、第三者に対して著作者人格権を行使する可能性(不行使特約はX社とライターとの間でしか効果がないので第三者には行使できる。)をケアする必要がある。
そこで会社とライターとの間でライター活動・取材活動についての情報を機密情報として扱い漏洩しないようNDAを結んで事実上のこれらの権利行使を封鎖することもアイデアとして考えられる。
さらに突き詰めると機密情報を適正な管理をできる体制を整え、これを不正競争防止法上の営業秘密として保護することもできればなお良い形になる。
2.次のステップへ(多角経営・メディアミックス)
無事メディアとしてページビューが増え専門家の方々に認知されてきたX社。そこで取材を通じて得た人脈や経験知をもとに、これから新しい技術製品を作ろうとしている会社Y社と共同で新製品を作ることにしました。また、新事術への関心を持つ一般企業様向けにコンサルタント業務を展開することになりました。
(1)共同開発の場合:共同開発契約はどういう内容で設定すればいいのか?できた製品の権利はだれのもの?
まずY社との共同開発の場合にはX社はどうコミットするのかがまず問題になる。X社にも技術者がいて、XY双方の職務発明((特許法35条))に基づいてXY社の技術者同士で共同で開発する場合には開発した製品について特許等を受ける権利はXY双方に帰属する。そして権利を共有しているので共同出願の形で特許申請する必要がある((特許法第38条))。
他方、製品制作の直接的な作業はY社の技術者で行い、X社は新技術に関する知見やアドバイスをする形で製品を作る場合は製品につき特許を受ける権利はもっぱらY社に帰属する。この場合、アドバイザリーのリターンとして様々な形の利益を想定することが可能であるが、一つとしては先行者利益として宣伝活動に利用できる権利を独占する権利を受ける、とか製品販売によるマージンを設定して販売数に応じたリターンを得るなどの交渉の可能性がある。
なお、プログラムを生成する場合にはプログラム自体が著作物になるケースもあるのでその分水嶺なども見極めて権利性やライセンスの可否などを突き詰める必要がある。
(2)コンサルタントビジネス・アドバイザリー契約:ここでコンテンツとなって社の力の源泉になるのは何なのか?それをどう守るのか?外部への露出による社のノウハウの陳腐化をどう防ぐか?
X社の場合新技術に関する各社への取材を通じて知った知識や人脈が新技術に関する知見やノウハウの源泉になって、共同開発やコンサルタントビジネスへの展開を生んでいる事例である。したがって、各ライターが持っている経験や考え、それらを編集部として吸い上げてその他の事業部に還元させるフェーズが重要になる。そして、これらは具体的な記事や製品とは異なりノウハウに過ぎないので著作権や特許などの方式では完全に守ることができない。
そこで重要なのが営業秘密として社内管理してノウハウを目に見える形で管理する体制の構築である。
不正競争防止法上営業秘密((不正競争防止法2条6項))として認められるためには
a)秘密管理性:秘密として管理されていること
b)事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること
c)公然と知られていない情報であること
の要件を満たすように情報を管理しなければならない。
具体的な方法については最低限の基準のラインとして経済産業省から営業秘密管理指針(平成31年最新版)が提示されているものの、具体的な管理徹底フローを積んでいる企業は多くはない印象である。
(3)さらなる事業展開:データリサーチ業務や人材採用業務への展開の場合は?
X社が取材で得た知見やノウハウ・人脈を通じてデータリサーチ業を行ったり人材採用・育成業に手を出す場合には、データリサーチのポイントを考える視座として、X社のブランディングを進めるうえでコンテンツを作る方向なのか、ノウハウを蓄積する方向なのかを方針付けて考えていくことが大事である。そのためには著作権法や特許法の勘所や不正競争防止法による保護範囲の使い方なども理解したうえで最終的なブランディングの終着地を考えたリサーチが出来なければ労多くて益少なし、ということになりかねない。
また、人材の採用業を行うためには派遣業に当たるのかどうか、派遣ではなく自前の労働者として提携先で働かせるのか、など派遣業に関する労働法の諸規定を順守する必要があり、この点でX社のビジネス方針をすり合わせておく必要もある。
(4)知財以外の権利処理:肖像権・個人情報
メディアとして仕事をする場合や取材の過程で収集した個人情報についてはあらかじめ利用範囲を明確化して漏洩や譲渡を防がなければならない((個人データにつき個人情報保護法22条以下参照))。また、肖像権や被取材客体の名誉といった人格権由来の利益についても適切なガイドライン(参照:肖像権ガイドライン、デジタルアーカイブ学会編)に基づき配慮する必要がある。
3 まとめ
今あげたケースでの知財管理やそれにまつわる問題点、事業拡大に伴う問題点はほんの一例に過ぎません。新技術をもとに立ち上げた企業様の場合、起業範囲を拡大し人脈を生かして発信しつつけてプレゼンスを確保しなければならない事情などから、事業を行うに際しての法律上の問題点や事業を拡大していく上で有用な法律の利用の仕方について検討するお時間を持てない法人の方を多数拝見しております。
弊所ではそのような法務に基づく知見を供給する余裕がない、若しくは検討はしているが事業のスピードに追い付いていない方に向けて一緒にMTGを伺い問題点を共有し解決のための糸口や具体的方法をご提供するサービスも展開しております。具体的には、各会社のご担当者からヒアリングを行いその上で適切な事業スキームや権利管理の方法を構築提案し、必要に応じて会社に出社して担当者様と一緒に仕事を行いアドバイスや指導を行う形になります。
もし、今回の事業プランや問題点に関して疑問や心当たりのある法人の皆様には是非弊所にご相談にいらしてください。
特にVRやアニメを扱うインターネットメディアの法人様には弊所の取り扱う知財法務技術に基づく知財管理ノウハウが適していると考えておりますので、いつでもご説明いたします。