1.著作権の理解と対応
著作権法は、多くの人々が日常的に接する法的なテーマです。この法律は、イラスト、画像、テキスト、写真、音楽、動画、プログラムなど、多岐にわたる著作物に関連します。しかし、この法律の全貌を理解することは容易ではありません。本記事では一般によく問題になる著作権侵害について解説いたします。以前に書いたこちらの記事もご参照ください。
著作物の範囲
著作物にはテキスト、画像、音楽、動画などが含まれます。著作権法第10条1項には著作物の種類が例示されていますが、これに該当しないものも著作物となる可能性があります。例えば、匿名のBBSでの書き込みやYouTubeでの動画紹介の字幕も著作物と判断される場合があります。
著作権法上の「利用」
著作権法上の「利用」とは、著作権者に認められた権利(第21条ないし第28条)に従い、著作物を用いることを指します。この範囲内で著作物を利用する限り、著作権侵害は成立しないのです。
2.民事における著作権侵害
著作権侵害は、著作者や著作権者(以下、総称して「権利者」といいます)の権利を無許可で侵害する行為です。特に民事においては、様々な救済手段が存在します。この記事では、民事における著作権侵害について、以下の4点に焦点を当てて詳しく解説します。
- 差止と損害賠償義務
- 故意過失による損害賠償責任
- 差止請求とその具体的な措置
- その他の救済手段(名誉回復措置など)
差止と損害賠償義務
著作権侵害を行った場合、権利者は侵害行為に対する差止と損害賠償義務を求めることができます。具体的には、違法に複製されたCDやDVD、違法演奏に使用された楽器などが対象となり得ます。
故意過失による損害賠償責任
故意や過失により権利者に損害を与えた場合、侵害者は損害賠償責任を負います。この責任は、権利者が実際に被った損害に基づいて算定されることが一般的です。
差止請求とその具体的な措置
差止請求は、著作権侵害の停止予防を求める権利(著作権法第112条第1項)です。差止に際しては、侵害の停止予防に必要な行為として、侵害の行為を組成した物や侵害の行為によって作成された物、または専ら侵害の行為に供された機械や器具の廃棄などが可能です(第112条第2項)。
その他の救済手段
権利者は、損害賠償に加えて、名誉回復措置を求めることも可能です。これにより、権利者の社会的評価や信用が回復される可能性があります。
3.刑事における著作権侵害
著作権侵害は、法的に厳しく規制されている問題であり、特に刑事における著作権侵害は重大な罰則が科される場合があります。この記事では、刑事における著作権侵害の罰則やその特性について詳しく解説します。
罰則の内容
著作権侵害に対する刑事罰としては、最大で10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、またはその両方が科せられる可能性があります。このような厳格な罰則が設けられているのは、著作権侵害が人々の創造意欲を減退させる危険性があるからです。
故意と過失
刑事罰が科されるのは、故意で他人の著作権を侵害した場合のみです。過失による著作権侵害は、刑事罰の対象とはなりません。この点は、著作権侵害の刑事罰が故意過失によって大きく異なることを意味します。
親告罪と非親告罪
一般的に、著作権侵害による刑事罰は親告罪であり、告訴権者が告訴しない限り罰せられません。しかし、特定の行為については非親告罪とされています。例えば、「著作者又は実演家の死後においてもし生きていたら著作者及び実演家の人格権を侵害になる行為」や「技術的利用制限手段の回避を行う装置やプログラムの公衆への譲渡等の行為」などが該当します。
刑事における著作権侵害は、故意で行われた場合に限り、厳格な罰則が科される可能性があります。親告罪と非親告罪の違いも理解して、著作権に対する正確な知識と認識を持つことが重要です。
4.著作権の内容
著作権には財産的権利としての狭義の著作権(支分権)と著作者の人格的利益を権利として定めた著作者人格権に大別されます。著作権侵害の成否を判断する前にまずは著作権の内容を知ることが大事です。
著作権(支分権)について
著作権は、著作者が自らの創造的な活動によって生み出した「著作物」の財産的な利益を保護する法的な権利です。この権利には、いくつかの支分権が含まれます。主なものとして、「複製権」があります。これは、著作物をコピーする行為を制限する権利です。また、「翻案権」もあり、これは著作者だけがオリジナルの著作物を改変できるという権利です。
著作権は、著作者が自らの創造性を活かして生み出した作品に対する報酬を確保するために非常に重要です。この権利によって、著作者は自らの作品を販売したり、ライセンスを付与して第三者に使用させたりすることができます。このようにして、著作者は自らの創造性を活かした作品に対する財産的な利益を享受することができます。
著作者人格権について
著作者人格権とは、著作者が自己の著作物について認められた人格的利益を対象とした権利です。この権利には、主に「公表権(第18条)」、「氏名表示権(第19条)」、「同一性保持権(第20条)」が存在します。公表権は、著作者が自らの作品を公にするかどうかを決定する権利です。氏名表示権は、著作者が自らの名前を作品に表示する権利です。同一性保持権は、著作者が自らの作品が改変されることなく、そのままの形で公表される権利です。
また、著作者の名誉や声望を害されない権利(第113条第11項)も存在します。これらの権利侵害にならないように、著作物を利用する際には十分な注意が必要です。
5.著作権侵害の要件
5-1.オリジナルの作品に著作物性・創作性があること
著作権とは、思想または感情を創作的に表現したものであり、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものを指します(第2条第1項第1号)。この定義に基づき、著作物性が認められるためには、その著作物に創作性が存在する必要があります。
創作性とは何か?
創作性とは、著作物の具体的な表現において、著作者の思想や感情が発露されていることを指します。この創作性が認められるための著作者の思想感情の発露の程度は、原則として高度なものである必要はありません。創作者の個性が表れていれば、それで十分です。つまり、高度な芸術性は必要ではありません。
創作性の要件と制限
著作物性の要件たる創作性は、具体的な表現について認められなければなりません。表現として具体化されていない単なるアイデアに過ぎないものは、著作物としての創作性を満たさず、故に著作物性がないため、保護の対象にはなりません。また、表現の選択の幅が狭く、その結果、誰が表現しても同じような表現になってしまう場合も、著作物性を満たさないとされています。
著作権侵害のリスクを避けるためには、これらの要件と制限をしっかりと理解する必要があります。特に、著作物の表現がありふれたものである場合、その著作物は著作物性を満たさない可能性が高く、そのような場合には、著作権侵害のリスクが低くなります。
5-2.オリジナルの作品への依拠
著作権法上の依拠とは、他人の著作物に接し、その作品の中に用いることを指します。具体的には、自分の著作物を制作するにあたり、他人の著作物の内容にアクセスし、それを自分の著作物の制作の参考にする行為です。この依拠が著作権侵害となるかどうかは、多くの要因に依存します。
典型的な依拠の事例
具体的には、オリジナルの著作物を参考資料として用いたり、オリジナルの著作物を利用した形跡が侵害品に残っている場合が依拠が認められる典型的な事例です。例えば、デジタル著作物における電子透かしなどが侵害品に残っている場合も、明確な依拠とされます。
依拠の推定
しかし、そのような明確な証拠がなくとも、オリジナルの作品が一般に対して広く周知・認知されている程度によっては、依拠が推定されるケースも存在します。このような場合、著作権侵害の証明負担が軽減される可能性があります。
依拠と著作権侵害の関係
依拠自体は必ずしも著作権侵害とは言えませんが、依拠が明確であればあるほど、著作権侵害のリスクは高まります。そのため、他人の著作物を参考にする際は、その使用が著作権法に適合するかどうかを慎重に検討する必要があります。
著作権法上の依拠は、他人の著作物を自分の作品作りに参考にする行為を指し、その行為が著作権侵害につながる可能性がある。依拠が明確な証拠で示される場合や、オリジナル作品が広く認知されている場合には、依拠が推定される可能性が高くなる。このような複雑な要素を理解し、著作権法に適した行動をとることが重要です。
5-3.オリジナルの著作物との同一性、又は類似性が認められること
著作権法上において、類似性とはオリジナルの作品の表現上の本質的特徴を直接感得できることを指します。この類似性は、時として「同一性」とも呼ばれますが、規範としては同種の内容であります。
類似性の判断基準
類似性の判断は、オリジナルの作品の表現上の本質的特徴が、侵害された作品にも明確に現れているかどうかに依存します。これは、一般的な観点から見ても、専門家の観点から見ても、明らかに感じられるべきです。
著作権侵害のリスク
同一性や類似性が認められた場合、著作権侵害のリスクが高まります。特に、類似性が認められた場合、それは侵害者が何らかの形でオリジナルの作品に依拠している可能性が高く、その結果として著作権侵害が成立する可能性があります。
5-4.利用行為及びみなし侵害行為の存在
著作権には多様な種類があり、著作権者がその権利を「専有」しています。この専有権には、著作物の複製、公開、翻案など、多くの権利が含まれています。
無断利用と著作権侵害
著作権者に無断でこれらの権利を行使すると、それは著作権侵害にあたります。例えば、著作権者の許可なく著作物をコピーしたり、改変したりする行為は明確な侵害行為とされます。
みなし侵害行為
さらに、著作権法には「みなし侵害行為」という特別な規定も存在します。これは著作権法第113条に定められており、具体的には海賊版の輸入や、技術的利用制限手段(いわゆるプロテクト)の回避行為などが該当します。このような行為は、明示的な侵害行為でなくとも、法的には侵害行為とみなされます。
著作権は著作権者が専有する多様な権利から成り立っており、これらの権利を無断で利用する行為は著作権侵害とされます。さらに、特定の行為は「みなし侵害行為」として法的に規定されているため、これらの行為にも注意が必要です。
6.よくある著作権侵害の例
6-1.無断でパロディを制作する行為
無断でオリジナルの著作物に依拠し、パロディとして制作したものは著作権侵害にあたる可能性があります。問題となるのは、オリジナルの表現の本質的な特徴を直接感得できるかどうかです。つまり、一見して表現がオリジナルと酷似していると感じられるかどうかが重要です。この線引きは非常に難しく、多くの場合、法的な判断が必要となります。
6-2.無断でSNSのアイコンに使用する
インターネット上の画像を無断でコピーし、SNSなどのアイコンに使用することも著作権侵害に該当します。著作権者の許可なく画像を使用すると、その行為は法的に問題とされる可能性が高いです。
6-3.無断でインターネットにアップロードする
インターネットへの著作物のアップロードは、著作権法における公衆送信権(第23条)の行使であり、本来は著作者にしかできない行為です。したがって、著作者の同意なく著作物をインターネット上にアップロードする行為は、公衆送信権の侵害となります。このような行為は、特に音楽、映像、テキストなどのデジタルコンテンツにおいて頻繁に見られ、法的に厳しく取り締まられています。
6-4.海賊版サイトからダウンロードをする
海賊版サイトとは、漫画・小説・音楽・映画などの著作物を違法にアップロードしているサイトです。故意で(海賊版サイトと知って)ダウンロードすると、刑事罰の対象となります(この場合は非親告罪です)。このような行為は、著作権者に対する損害を与えるだけでなく、法的にもリスクが高いです。
6-5.新聞記事をコピーして配る行為
新聞記事をコピーして配ったり、スキャンしたデータを共有したりすることは、著作権侵害にあたります。ただし、私的使用目的(自分だけが使用する)の場合は、例外として認められています。それ以外の場合、特に商用目的での配布や共有は、明確な著作権侵害とされます。
7.自分の作品について著作権侵害を受けた時の対応策
著作権侵害は、クリエイターにとって深刻な問題です。特に、自分の作品が無断で使用された場合、どのように対処すべきかは重要な課題となります。この記事では、経済産業省 特許庁のガイドラインを参考に、著作権侵害を受けた際の対応策について解説します。
以下については特許庁「著作権侵害への救済手続(jpo.go.jp/support/ipr/copyright-kyusai.html)」もご参照ください。
7-1.証拠の保全
まず最初に行うべきは、証拠の保全です。侵害行為が確認できた場合、スクリーンショットを取るなどして、証拠をしっかりと保存しておきましょう。
7-2.専門家への相談
著作権侵害の問題は複雑であり、専門家の協力が必要な場合もあります。弁護士に相談することで、より確実な対応が可能となります。
7-3.侵害者への連絡
次に、侵害者に対して警告や削除要請を行います。ただし、この段階での公的な手続きは避け、まずは個別に解決を試みることが推奨されています。
7-4.法的措置
侵害者が警告や削除要請に応じない場合、法的手続きを検討することになります。具体的には、差し止め請求や損害賠償請求が考えられます。
著作権侵害を受けた場合の対応は、証拠の保全から法的手続きまで多岐にわたります。早めの対応と専門家の協力が、問題解決の鍵となるでしょう。
8.著作権侵害をしないための対策
8‐1.著作権者から許諾をもらう
著作権侵害を避ける最も確実な方法の一つは、オリジナルの著作権者から許諾を得ることです。許諾を得ることで、その著作物を合法的に利用することが可能となります。許諾を得る際には、利用方法、使用料、利用期間などの条件を明確にし、書面で残しておくことが重要です。これにより、後でトラブルが起きた場合でも、証拠として利用できます。
8-2.著作権者から著作権の譲渡を受ける
著作権は、他人に譲渡することが可能です。しかし、著作権には「著作者人格権」という、著作者の人格的利益に基づく権利も存在します。この著作者人格権は、著作権法第50条により譲渡できないとされています。したがって、著作権の譲渡を受ける際には、著作者との間で「著作者人格権の不行使特約」を設けるなど、その権利行使を受けない条件を明確に取り決める必要があります。
例えば、著作者がその作品に対する「公表権」や「氏名表示権」を行使しないという特約を設けることが考えられます。このようにして、著作権と著作者人格権の両方に対する配慮を行うことで、後々のトラブルを防ぐことができます。
9.著作権侵害に関するポイント
9-1.そもそも著作権侵害を判断することは容易ではない
著作権侵害にあたるかどうかの判断は非常に難しい問題です。著作権法は複雑であり、一般の人々には理解しきれない部分も多いです。そのため、判断に迷っている間に時間が経過し、トラブルが大きくなる可能性があります。例えば、ある作品が他の作品と「類似」している場合、その「類似性」が法的に問題となるレベルに達しているかどうかは専門的な知識が必要です。このような状況で適切な判断を下すことは、専門家でない限り困難であると言えます。
9-2.著作権侵害のトラブルは早めに専門家に相談することが肝要であること
著作権侵害に関するトラブルが発生した場合、早めに専門家に相談することが重要です。知的財産実務に関する専門的な知識やノウハウが必要とされるため、少しでも早く著作権に詳しい弁護士や知的財産コンサルタントに相談することが、トラブル解決のカギとなります。専門家は事実確認や交渉、法的手続きなどを適切に行い、最良の解決策を提案してくれます。時間が経過すると、証拠が失われたり、トラブルが拡大する可能性があるため、早期の対応が求められます。