AIでの学習・生成と著作権の関係は?著作権侵害に該当するケースと合わせて解説

近年、AI(人工知能)による技術が急速に進歩し、ChatGPTを始め、画像や文章を自動的に生成するツールが次々と生まれています。これらの技術の進歩は、我々の生活やビジネスに新たな可能性をもたらしていますが、同時に著作権という新たな課題も生まれています。

本記事では、このAIツールの開発・使用に伴う著作権問題について詳しく解説します。AI関連の著作権事情に興味がある方、また、自身の利用や開発が著作権侵害につながる可能性に懸念を抱いている方は、以前の記事も含めてぜひ参考にしてください。

1.AIと著作権の基本的な考え方

著作権とは、作者が「思想又は感情を創作的に表現した」著作物を保護するための法制度です。具体的には、小説、映画、音楽などが該当しますが、データや作風・画風などのアイデアや方法そのものは、著作権で保護されません。

著作権法の主眼は、一方で著作権者の権利や利益を保護し、他方で社会全体が著作物を円滑に利用できるというバランスを保つことにあります。AIと著作権の関係性について考えるとき、大きく「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」で著作権法の適用条文が異なります。AIツールを開発する者や、これらを活用する者は、著作権についての基本的な知識を身につけ、そのルールを遵守することが重要となります。

2.AI開発・学習段階で著作物は利用できる?

2-1.絵・写真・文章などの学習

著作権法において、AIの開発や学習に利用するための著作物の利用は、営利目的であろうと非営利目的であろうと基本的には認められています。元々、著作物の複製は、その権利者から許諾を得ることが必要ですが、AIの開発や学習のための利用であれば、2018年に改正された著作権法第30条の4により、権利者からの許諾なしに複製することが可能とされています。

著作権法は、視聴者が著作物を視聴し、その結果として知的・精神的欲求を満たすことの対価として、著作者に対する報酬を保障する制度です。これは基本的に人間に対してのものであり、AIの学習過程には当てはまりません。

2-2.歌・演奏・演技などの学習

著作権法においては、「実演」とは著作物を演じたり歌ったり、その他の方法で演じることを指します。これには楽曲を歌ったり演奏したりすること、芝居を真似て演じること、ものまねをすることなどが含まれます。これら実演には「著作隣接権」が発生し、原則として許諾なしには録音や録画ができません。

しかし、著作権法第30条の4の規定は著作隣接権にも適用されるため、AIの開発や学習の過程であれば、権利者の許諾を得ずに利用することが可能とされています。

2-3.第30条の4の規定対象とならないケース

基本的には、著作権法第30条の4により、AIの開発・学習の過程で著作物の利用は認められます。しかしながら、一部例外が存在します。それは、特定の著作物の種類や利用方法、利用状況が著作権者の利益を不当に侵害すると判断される場合です。この規定の適用可能性は、著作物の潜在的な市場に対する影響を評価することで判断されます。

しかし、現状ではAIによる利用が市場に及ぼす具体的な損害が明らかになっていないため、この規定が適用される可能性は低いと言えます。著作権法は、時代と共に変化し進化していくものであり、今後のAI技術の進歩により、この問題についての議論も進展するでしょう。

3.AIを利用した画像や文章などの生成は著作権侵害にあたる?

3-1.総論

現代のテクノロジーでは、AIを使用した画像や文章の生成が一般的になっています。しかし、これらの生成物についての著作権の問題は複雑で、多くの疑問を投げかけています。侵害の可能性があると考えられる一方で、その責任をどこに求めるべきか、開発者にあるのか利用者にあるのか、それは一概には決められません。

3-2.AIツール開発者の責任

AIツールを開発する者に関しては、そのツールを使用して生成された著作物と同一もしくは類似のコンテンツについての責任は、基本的には低いとされています。なぜなら、開発者は通常、ツール自体を提供しているだけで、そのツールがどのように使用され、何を生成するかについては直接関与していないからです。そのため、ツールがどのように使用されて何が生成されるかについて開発者が全責任を負うということは一般的には考えられません。

さらに、AIツールは大量のデータから学習して生成する特性上、特定の著作物と完全に一致するか、あるいは類似した生成物が出る可能性は比較的低いと言われています。しかし、その一方で、特定の著作物と完全に一致または類似した生成物が出たとしても、それに対する開発者の責任は一般的には低いとされています。開発者がツールの使用方法を制御し、結果的に何が生成されるかを直接決定したわけではないからです。しかしながら、このことが開発者の責任がゼロであることを意味するわけではありません。あくまで低い可能性であるという認識を持つべきです。

3-3.AIツール利用者の責任

一方、AIツールを利用して生成したものが、既存の著作物と類似性や依拠性を持つ場合、その利用者がそれを複製、譲渡、公開するなどの形で利用すると、著作権侵害に該当する可能性があります。この場合の類似性とは、著作物の創作的表現が同一または類似していることを指します。

AIツールは既存のデータをもとに生成するため、著作物との類似性が高まるケースがあります。また、依拠性とは、既存の著作物をもとに新たな作品を創作したという関係性を示します。利用者がこれらの点を認識し、適切な対応を行わなければ、著作権侵害として損害賠償請求や差止請求が可能となり、さらには刑事罰の対象にもなり得ます。

4.AI生成物に著作権が発生するか

AIによって生成された作品に著作権が発生するかどうかは、一般的には人間の関与の度合いによります。人間がAI生成物に対して創作意図と創作的寄与をした場合、その生成物には著作権が発生する可能性があります。

創作意図とは、制作するにあたり創作的な行為をしようとする主観的意図を指し、創作的寄与とはそのための具体的な表現を指します。具体的には、AIが生成した作品に対して人間が手を加えた場合や、人間がAIに細かく指示を出して作成したイラストや文章については、その部分に対して著作権が発生する可能性があります。

しかし、AIに対する指令内容が一般的であり創作性が認められない場合、その生成物に著作物性が認められない可能性もあります。つまり、AIに対する指令が特定の創作物を作成するようなものではなく、一般的な指示(例えば、「人間の顔を描画せよ」)であった場合、その生成物に著作物性を認めるかどうかは難しい問題です。

また、現行の法律では、これらの問題についての明確な定義や基準が設けられていないため、その判断はケースバイケースであり、曖昧な部分が多いと言わざるを得ません。そのため、これらの問題については法律の進化とともに、さらなる議論と検討が必要とされています。

5.AIが作成したものを保護する方法

5-1.商標権による保護

商標権とは、特定の商品やサービスに使用する商標を独占的に利用することができる法的権利の一つです。AIが生成したものを自社の商品やサービスに活用したい場合、それを商標登録することで保護が可能になります。

たとえば、AIが生成したロゴを商標登録することにより、他社は同一や類似したロゴを使用することが法律的に制約されます。これにより、自社のブランドイメージや知名度を確保し、市場での競争力を保つことができます。

5-2.不正競争防止法による保護

AIが生成したものを自社の商品や営業を示す表示として利用する場合、不正競争防止法による保護が可能となります。

例えば、AIによって生成されたオリジナルの商品表示がすでに一定の知名度を獲得している場合、他社が同一もしくは類似の表示を使用することで消費者が混同する可能性が生じます。このような状況を防ぐために、不正競争防止法は使用の差し止めを認め、さらには損害賠償請求も可能とします。これらの手段により、企業は自社の知的財産を保護することができます。

6.AIツールを利用するときの注意事項

6-1.AIツールが学習データとしてどのようなデータを使っているかを確認すること

AIツールについては学習データとしてどのような作品を学習に用いているかを確認するのはAIツールによる生成物が既存の著作物の権利を侵害しているかを判断するうえで大事な要素になります。

現在はAdobe FIreflyのようにきちんと著作権者の許諾を得た作品のみを学習に用いているAIツールなども登場してきており、AIツールの提供者においても学習データの内容の保証や範囲についての把握に努めている流れがあります。利用者としてはそのような既存の著作物に対して安全な配慮を取っているAIツールを利用することがよりのも増しいといえます。

6-2.AIツールに対して出す指令の内容について、既存の著作物を反映した指令は避け、AIツールを用いて意図的に既存の著作物に類似する作品を生成しないようにすること

AIツールを指令を通じて生成物を出した際に既存の著作物と類似しているという事態が生じると、既存の著作物の著作権(複製権・翻案権など)を侵害している可能性が出てきます。この際既存の著作物を反映した指令をして意図して既存の著作物に類似した作品を生成した場合はそのような指令を出したAIツール利用者が著作権侵害の責任を負うことになります。

したがって、AIツールを用いて指令を出す際には既存の著作物に似た作品を出してしまうような指令は避け、意図して類似作品を生成しないように注意する必要があります。

6-3.結果的に類似する作品を出した場合は利用を控えるなどの対処も検討する必要があること

AIツールの利用段階において、既存の著作物に類似する作品を出さないように注意して指令を出した場合でも結果的に既存の著作物に類似する作品が出てくることはあり得ます。この場合著作権法の原則に沿えば、学習データに既存の著作物が含まれていない場合はもちろん、含まれている場合であっても著作権侵害の要件である依拠性が満たされない、として著作権侵害が成立しないのが理論的帰結になります。

しかし、このような場合でも裁判になった場合には、AI生成物と既存の著作物が高度に類似している場合は依拠性の存在が推認され、AI利用者側において学習データにおいて既存の著作物が含まれていないことや指令において既存の著作物が念頭に置かれていないことを相当程度立証しなければならなくなることが考えられ、少なからぬリスクをAI利用者が負うことになります。

したがって、仮に明らかに既存の著作物に酷似している作品をAIが生成した場合などにおいては、そのような生成物の利用自体を控えることも検討に入れることが望ましいといえます。

7.AIツールによって自分の作品と似た作品を生成され利用されたときの対処法

7-1.AIツールによる学習を禁止することは困難

AIツールが著作権侵害に関与する可能性は存在します。そのため、侵害の予防策としてAIによる学習を禁止することを考えるかもしれません。しかし、その実現は困難です。AIツールの学習過程では、数多くのデータが利用されます。一部のデータが被侵害品であったとしても、それがすべての学習に影響を与えるわけではありません。さらに、AIの生成物が被侵害品に類似している場合でも、必ずしもそのAIが被侵害品を学習したわけではない可能性もあります。AIの生成物に対する依拠性や類似性の判断は複雑で、法的な解釈を要する場合があります。

7-2.AI生成物による権利侵害から保護する方法

AI生成物による著作権侵害から保護するためには、複数の要素を考慮する必要があります。まず、AI生成物が著作物となるためには、「表現」と「創作性」が必要です。これらが満たされている場合、AI生成物は著作物として扱われ、著作権の保護を受けられます。また、著作権侵害を主張するためには、侵害者の作品が既存の作品に依拠していること、既存の作品と類似していること、そして侵害者が著作権者から利用許諾を得ていないことが必要となります。

さらに、AI生成物の場合、学習データに侵害品が含まれていた場合、侵害品に対するアクセスがあったかどうかが重要な要素となります。例えば、学習データに侵害品が含まれていないが、指令を出す過程で侵害品にアクセスがあった場合、または学習データに侵害品が含まれていても指令を出す過程で侵害品へのアクセスがなかった場合、侵害性は不明確となります。

これらの要素を考慮し、可能な限り侵害を防ぐためには、AIの学習データや学習過程、生成される物のチェック体制を整えることが求められます。具体的には、学習データを選定する際には著作権に配慮したものを選び、AIの学習過程においては侵害可能性のチェックを行い、生成された物についてもその侵害性を評価する仕組みを設けるなどが考えられます。これにより、AI生成物による権利侵害を最小限に抑え、AIの有効な利用を図ることが可能となります。

7-3.AIツールの利用規約との関係

(1)Adobe Fireflyの場合

Adobe Fireflyの現在のベータ版は商用利用を禁止しています。また、違法な内容の作成やアップロードも厳禁されています。AdobeではAIの入力・出力に対して特定のルールが設けられています。例えば、第三者の権利に関するものを入力することは禁止されております。また個人情報をAIに入力することは控えることが望ましいとされているほか、AIによる出力結果に対する責任はユーザーが持つことが求められます。Adobe FireflyではAI生成物に出力作品に透かしやメタデータを付与することもありますが、これらを改変したり削除したりすることは禁止されています。

(2)ChatGPTの場合

OpenAIがChatGPTに関しても利用規約上いくつか禁止されている事項があります。

まず、生成された出力をSNSなどで共有する際は、公開前に必ず内容を確認しましょう。利用規約上コンテンツの責任は利用者が持つため、その事実を示すことも必要です。また、コンテンツがAIによって生成されたものであることを、明確に記載することも必要です。さらに、OpenAIのUsage Policyで禁じられているコンテンツを投稿しないよう注意が必要です。特に、ストリーミング配信時に視聴者のリクエストで適切でないプロンプトを入力することは避けましょう。

生成結果を追記や改変して公開する場合も、同様のルールが適用されます。ここでも、コンテンツの所有者としての責任を認識し、内容がAIによって生成されたことを明示する必要があります。具体的には、AIの使用方法や範囲を序文などで明示すると良いでしょう。また、第三者を不快にさせる内容の公開は避けましょう。

(3) 一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)のガイドライン

一方で、JDLAの「生成AIの利用ガイドライン」は、著作権、プライバシー、セキュリティの観点から「やっていいこと」と「やってはいけないこと」を定めています。特に入力データには、著作物やロゴ、商標、個人情報などの扱いについて、一定のガイドラインを設けています。

ガイドラインでは、AIによる出力結果に対しても注意が必要で、出力が既存の著作物に似ていたり、第三者の名誉や信用を棄損する可能性がある場合、利用者はそれを避けるべきであることも指摘されています。また、出力結果の商用利用は利用するAIツールの規約によるため、規約の遵守が求められます。出力結果が模倣されないように著作権で保護するためには、その結果が「創作的寄与」によるものであることが求められます。

これらの点から、AIツールを使用する際はその利用規約や法律上の要件について理解し、適切な使い方をすることが求められます。

8.まとめ

以上のように、AIツールについては利用者において遵守すべきポイントが相当程度存在しており、これらを遵守したうえで適切に利用することがAI利用者とAIの学習ツールに用いられるクリエイターや実演者の権利とを調整するうえで必要になります。

AIツールは利便性のあるものであり有効に活用することでこれまでの創作や発明、日常生活などの効率化が促進される有用なものである一方、AIを利用することにより知らずのうちに第三者の権利を侵害する恐れも出てくる点に注意する必要があります。

弊所ではAI利用者の方のご相談や、AI生成物によって自分の作品の権利を侵害されているのではないかとお悩みの方のご相談を広く受けたわ待っております。AIツールとの付き合い方も含めてご不明な点がありましたらいつでも弊所にご相談ください。

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