クリエイティブ分野に詳しい弁護士として、2023年10月11日開催のオンラインイベント「著作権法に基づくAIとクリエイターの生存戦略」にて、前田拓郎弁護士がゲスト登壇をしました。
本イベントは、2015年から続く関西発祥のクリエイター交流イベント「クリエイター祭り2023@グランフロント大阪」とのコラボレーション・PRのために行われたプレイベントです。
当日はZoomでのオンライン開催となり、30名以上のクリエイターのみなさまにご参加いただきました。
本レポートにて、イベントの様子をお伝えいたします。
クリエイター祭りプレイベント
「著作権法に基づくAIとクリエイターの生存戦略」
日時:2023年10月11日(水) 20:00 〜 22:00
場所:Zoom
▼クリエイター祭り2023 イベントページ
3年後の未来を切り拓け!悩み爆発クリエイター祭り 11.25(土)グランフロント大阪
今回はクリエイターの方に向けたイベントであり、AIツールの情報を扱うことから画像生成やChatGPTなどに興味がある方々に50名以上の方にお申し込みいただきました。
【メインスピーカー】
ゲスト登壇 「前田拓郎弁護士」
弁護士として出版業やアニメーションなどのエンタメ・クリエイティブ業界やAI・メタバースなどの最先端技術を扱う分野を中心に、コンテンツを扱う企業様やクリエイター様向けに法務やコンサルティング業務を担当しております。
【進行・イベント企画】
Web/PR広報ライター
フルカワカナコ
大阪で活動中のフリーランスのWeb/PR・広報ライター。クリエイター祭りスタッフでイベント司会、本イベントレポートを担当。
クリエイター祭り主催/フリーランスの駆け込み寺
カッシー
クリエイター祭り主催。株式会社クリエイティブユニバース代表。クリエイター支援やUXデザイナーを手掛ける。
クリエイターが知っておきたいAIツールと著作権の基礎知識
今回のイベントはクリエイターの方にとって知っておきたいけれど理解が難しい「著作権」や「AIツール」について、正しい知識を身につけてもらいたいという要望を受けて開催をしました。
クリエイターのみなさんの創作活動の中でも、著作権や契約に対する知識が少ないことでトラブルが起きることは多々あります。
イベントの冒頭はクリエイター祭りのオリエンテーションから始まり、当事務所で開催中の「著作権法セミナー」などについてもPRいただきました。
最初のメインセッションではAIツールへの理解を深めて頂く前に、クリエイターなら知らないとは言えない「著作権」について概要を解説をはさみました。
依頼の際に契約書で見ておくべきポイントや、契約時に気をつけるべきことなどもわかりやすくお伝えしました。
●納品、業務終了の判断ラインを定めることが大切
特にクリエイターの方に注意してほしい点として「どこまでやれば納品完了か」をしっかり定めておくことが重要です。
契約書を交わす前の段階で、仕事が終わるタイミングや納品の定義をクライアントと認識がずれないようにしておくことが大切とお伝えしました。
また契約書はクライアントから提供されたものを鵜呑みにするのではなく、必ず自分で目を通した上で不利な項目がないことを確認する意識を持ってほしいとお話しました。
クライアントを相手に交渉や話し合いをするのは緊張するかもしれません。ですが、可能な限り相手の方と話す機会を大切にしていただければとまとめました。
AIツールの著作権は「学習段階」と「生成段階」を分けて考える
次の話題では今回のイベントテーマである「AIツール」について解説を行いました。
AIツールと聞いて皆さんはどのような印象を持っているでしょうか?便利なツール、仕事を奪われるかも、権利面が心配などいろんな気持ちをみなさん持たれると思います。
まず最初に、AIツールの著作権や権利を理解するためには、「学習段階」「生成段階」を分けて考えることが大切です。
下記のスライドは、画像生成AIツールの学習の仕組みを図解にしたものです。
多くの人はAIツールで生成されたものだけを見て、判断を行おうとしますが、実際には学習段階にどのようなプロセスを辿ったか、指示文となるプロンプトを使ったかが重要になります。
クリエイターのみなさんは学習段階からAIツールを活用する機会も少なくありませんので、仕組みの部分からAIツールへの正しい理解をしてもらえるように噛み砕いた説明を行いました。
AIツールに関する不安や利用への意識アンケートを実施
またAIツールについては参加者のみなさまへ、AIツール利用についての意識調査とAIツールに対する不安や心配ごとのアンケートを実施。
効率的に文章やさまざまな業務効率化に貢献するChatGPT、精密なイラストの生成ができることからAI絵師と言われる人たちも出始めた画像生成AIツールに対してご意見を募りました。
同じくAIツールに対する不安についても回答項目を設けたところ、ほとんどの方からAIツールに感じる不安やコメントを記入いただけました。
クリエイターのみなさんにとって、AIツールは利用や活用範囲に不安はあるものの、ご自身の活動を助けるもの・効率を上げるものとしての活用を検討しているなど、前向きな意見も多いのが印象的でした。
AIツールで作った作品の著作権を判断するポイント
著作権だけでも理解や説明が難しいのに、AIツールの著作権を判断・考えるのは難しいことですよね。
今回はクリエイターの中でも、イラストレーターを始めとしたビジュアルを重視した職業の方に多くご参加いただいたこともあり、画像生成AIによる作品の「著作権」に関する疑問・質問が多く寄せられました。
質疑応答や一問一答のセッションでは著作権の話題を中心に、AIツールへの知識が深められるように雑談を交えながら回答を行いました。
なにを学習させたか、制作のプロセスを説明できることがポイント
AIツールで作成した作品の著作権を考える前に確認したいこととして、
学習させるデータや指示の中に、他の誰かの著作権に違反するものがないかを確認することが最初のチェックポイントとお話しました。
例えば「Adobe Firefly(アドビファイヤフライ)」では、著作権をクリアしたデータだけを学習に使用していると公表しており、権利面から安心して使ってもらえるように謳っています。
運営会社が信用できる、著作権や法務面でクリーンであるツールの利用に絞ることを、まずクリエイターのみなさんには意識してほしいとお伝えしました。
●プロンプトを記録しておくことが身を守ることにつながる
次に不安の声が多かったのは「自分の作品がAI製と疑われる」ことについて。
最近はSNS上で、クリエイターに対して根拠のないAIツール利用の批判や、誹謗中傷がクリエイターに対して行われる事例が多くおきています。もはやこうした被害は、いつ自分の身に起こるかわからない状態と言っても過言ではありません。
参考:
『スレイヤーズ』のあらいずみるい先生が新刊でAI使用疑惑 → レイヤー動画公開で否定 「ひどいと思った人の名前は記録してる」
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2308/15/news103.html
この場合は、自分がどのようなプロセスを経由して作品を作ったのか、証明できるものを残しておくことがまず1点。
AIツールを活用していた場合は、どんなプロンプト(指示)を使ったかをしっかりメモすることが大切とお伝えしました。
自分の身を守る点でも、どんな内容を指示して生まれたものかを説明できれば、根拠のない指摘に適切に対応ができます。
似ているだけでは「著作権違反」にはならず「依拠性」までみる
事前の質問でも不安の声が多かった、AIで生成したものが「著作権違反」になる判断ラインについても回答を行いました。
AIツールで生成された作品だけを見て著作権の有無の判断を行うことは難しく、どのようなプロンプトを入力したか記録するのと同様に、学習させた・生成に至るまでに「元の作品」を参考にしたかどうかが重要な判断基準の一つとなります。
依拠性(いきょせい)とは:
既存の作品や似ているとされる作品などに制作の前に参考・アクセスしたかどうかということ。
つまり「なんとなく似ている」だけでは、著作権に違反していると断言はできません。
しかし、世界的に有名・一般的な知名度が高いものに関しては、実際に参考にしていなくとも指摘される可能性はあります。専門家でも判断を下すのは難しい状態であることも現状です。
参考:東京五輪エンブレム問題
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1509/01/news146.html
著作権の判断が難しい「創作性の有無」という概念
さらに、著作権の判断を難しくさせるものに「創造性」という考え方があり、こちらについても回答をさせていただきました。
クリエイターにとって、自分の作品や制作物は我が子のように大切に作られている方が多く、創造性は広くいろいろな解釈もされやすい部分です。
創造性とは:
自分の独自性・オリジナリティなどの、創作をする上でとても重要になる「自分の意向・考え」のようなものが含まれているか。
AIツールで生成されていたとしても作者が、工夫や創作意向を凝らして十分な創造性があり、他の著作権を侵害していなければ、著作権違反にならない場合もあります。
その創造性がAI生成の過程にあることもあれば、生成されたものに手を加えて独自性を加える過程で加えられることもあり、とても判断が難しい部分だとお伝えをしました。
クリエイターとAIツールの共存戦略・活用するために
イベント後半の質疑応答の時間では、AIツールに対する前向きな利用を検討した質問も多く寄せられました。
また同時にAIツールの登場で、クリエイターの仕事はどのように変化するだろうか?という話題にも、単純な質問の回答だけにとどまらず広くディスカッションを行いました。
AIツールの発展でクリエイターの仕事は減ってしまう?
またAIツールが今後発展するとして、クリエイターの仕事はAIに奪われてしまうのか。
という漠然とした不安には、法務面からは前田弁護士、クリエイター支援の面からは樫本祐輝さんの両名から回答を行いました。
前田拓郎弁護士
AIツールは、まだまだ創作者の想いやストーリーが込められた作品を作ることは難しい。
そうしたクリエイティブや独自性のあるクリエイターにとっては、まだ大きな脅威にはならないかもしれません。
しかし、クリエティブの現場にある先輩の後ろ姿を見て学ぶといった、これから育っていく若手・未来のクリエイターにとって、学習機会の損失などが生まれてしまうのではないかという懸念があると回答。
誰がやっても同じ結果になる、作業に近いような仕事は、AIツール代行されるようになるため、視野を広げてどこで学び、ひとつ上のステージへ上がれるようになるかが問われていると話しました。
カッシーさん
たしかに作業の側面が強い仕事は減ってしまう可能性がありますが、その一方で新しい仕事も生まれるため仕事自体の総量は変わらないかもしれないと回答。
AIツールを使うことで、自分の力では今まで手を出せなかったことに挑戦する人や、新しい仕事や事業にチャレンジしやすくなったことも事実です。AIツールの進化はWebの世界でいうところの技術進歩に似ています。エクセルができたからと言って、事務の方々の仕事がなくなるわけではなく、AIツールに代行された仕事がなくなった分、新しく人がやるべきことはきっと増えるはず。
まず自分の仕事がAIツールに代行される可能性が強いなら、次に生まれる仕事や次のステージへ上がるために、アンテナを張って動くことが大切と話しました。
品質の担保を鍛えることもプロの大事なこと
また現時点でAIツールがクリエイターの仕事に取って代わるには、品質の担保が難しいという見方もあると回答しました。
クライアントの要望に合わせて、いつも変わらないクオリティ・品質を担保した作品をAIツールに生成させるには、プロンプトの研究や改善なども必要になります。
こうしたAIツールが成長する速度は目覚ましいものがありますが、日々の創作活動やクリエイターとしての活動を続けるために、プロとしてどのように品質を担保して行くかを考えることも大切だと総括としてお伝えしました。
まとめ:AIツールの著作権を知れば、よりクリエイティブに活用できます!
今回のイベントでは、AIツールを中心に著作権や利用する上で権利・法務面から注意するべきことを広く、わかりやすく回答をしました。
AIツールの発展を必要以上に恐れることはなく、うまく付き合っていくためには正しい知識を身に着けていくこと。
そして、トレンド性の高いAIツールに対する根拠のない噂や、AIツールを悪く活用する人たちの情報に惑わされないようにすることがとても大切です。
またご自身だけで判断や対応が難しいと感じた場合には、無理に良くない対応を行う前にぜひ弁護士や専門家にご相談ください。
小さな違和感の状態でもご相談いただくことで、大きなトラブル回避につながることもあります。
ぜひお気軽にご相談くださいませ。